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貴方の存在意義。
「もう、雷くんったら無闇に人を叩いたら駄目って言ってたでしょう?」
とある都立高校に『生徒会長を雷が一方的に殴った』との事で呼び出されたのは、北野雷の保護者北野臣だ。
学校の校長室で担任教師とテーブルを挟んだ席で臣は雷を叱った。
教師の前にだらんと腰掛けるのが臣の義理の息子である雷だ。
「…奴が悪ぃーんだよ」
雷が言葉で指す『奴』こと被害者は病院送りの為この場には居なかった。
「詳しく教えてくれないかな?その時の状況」
校長室に集まった教師4人は、はなから雷に過失がありとして信じていなかったので、臣の質問に、いくら親子といえどとギョッとした。
雷は重い口を開いた。
「永谷、牧に死んでみろっつったらしー」
牧とは、イジメられっ子で、雷以外のその場に居た生徒だ。
「俺、辛くて…」
※
夏休み。学校の屋上から飛び降りるべく、泣きながらフェンスをよじ登った彼を其処から引き離したのは雷だった。
牧は雷に涙ながらに告白した。
もう生きてる意味が感じられないと。
それを聞いた教師達は首を横に振った。
「永谷にかぎってそれは無いと」
「彼はうち自慢の模範生徒ですからね」
牧は再度自分にとって味方が居ない事実に生きる気力を無くした。
ーーーそれがあの飛び降り自殺をはかった理由のひとつだった。
泣きじゃくる牧の話を唯一真面目に聞いたのは臣だ。
臣は膝に乗せた拳をギュウと握る。
「牧くん、よく話してくれたね。かなり勇気がいったでしょう?ありがと」
臣はイジメられっ子の肩をふわりと抱いた。
目を剥いたのは教師達だ。
「永谷より牧の言葉を信じるんですか!?」
有り得ない。と言う教師に向かって。
臣は牧に回した腕に力を込めた。
「この子を信用した理由はうちの息子の言い分です」
臣は続けた。
「うちの雷は嘘を言いません」
気持ちにも。相手を思いやる心にも。
臣は真っ直ぐな瞳を教師に向けた。
「仮に牧君が自殺したとしてたら貴方がたは責任持てましたか?」
その言葉が教師達の触れられたくない核心を突いた。
「教育委員会に連絡します」
校長が折れた。
※
牧が感謝の言葉を雷に向ける間臣はゆっくりと待った。
雷が自分の元へと戻って来た時、臣はしゃがんでいた体勢を伸ばした。
「雷くんのお陰で尊い命が救われたね」
臣は雷を撫で付け続ける。
「雷くん、お手柄お手柄」
自慢の息子だと評価する義父に雷はそっぽ向いた。
「ほとんどおみさんのお陰でしたけどね」
「そんな事無いよ」
にこーと臣は続ける。
「お友達の命守れたのは雷くんの行動のお陰なんだから」
「友達とかそんな関係深くねーし」
「ならなおさら、牧くんが告白してくれた相手が雷くんで良かったんだよ」
雷は臣から視線を離しつつ思った。こんな自分の言葉を信じてくれたおみさんが1番スゲーんだと。
正直な臣に対して雷はテレ隠しの為晴れきった空を見上げた。
fin
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