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「カレーって、子どもはみんな好きでしょ? 嫌いな子を探すのが難しいくらい。だからね、カレーは頑張って作ろうって思ってた。カレーに苦手な野菜を入れたら食べてくれるかな、とか、エキスだけでもって色々考えて。水分をトマト缶詰に変えたりとか、きのこをブレンダーでペーストにして入れてみたりとか。そうしたら、なんか味が変になっちゃって、だから『ルーじゃなくてスパイスを組み合わせるところから自分でやったらいいのかも』って、いろいろ。でもね、全部空回りだった。りんごと蜂蜜がカギだ、みたいに聞いたらそれを入れて、りんごと蜂蜜を入れるならシナモンだって思って、シナモンを入れて。ちょうどその頃ね、研究のためにって食べた戦隊カレーが、結構シナモン効いてたのよ。だから、これだーって思ったのよね。シナモン、シナモン! って突っ走っちゃった。その頃だったよね、そう、シナモンの頃。いよいよ嫌われちゃって。ついにって感じなんだけど、この人からも変な顔されちゃって。それからカレーを作るの、嫌になっちゃって」  父は、何も言わない。否定も、肯定も、しない。 「そんな感じで、こだわりはないのよ。あるのは空回りの経験だけ。私はもうカレーを作らないわ。カレーなんて、こうして食べに来ればいいんだもの」  ズズズ、と音がした。  ストローの音じゃない。彼女が、洟をすすったのだ。 「私、スパイス組み合わせるところからカレー、作ります。研究してきます。それで、彼が美味しいって思ってくれるカレーのレシピ、できたらお母さんにお教えします」 「ん……え?」 「カレー、作りましょう。ギャフンと言わせてやりましょう。美味しいって、お代わりさせましょう」 「え、えっと?」 「嫁に、なりたいです!」  公開プロポーズっていうのを、テレビとか動画サイトで見たことがある。が、こんなプロポーズは見たことも聞いたこともない。当事者意識が欠落した。スパイスで気持ちが変にでもなっているのか、女性陣が盛り上がる。見たことのない一面。  状況が把握しきれない。  ただ――彼女が母を大事に想ってくれているということだけは、理解できた。
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