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「ほら、あんた。邪魔だよ! 邪魔!」
聞き慣れない声に、呼び起こされる。
脳が覚醒するのすら待ってもらえず、瞼が上がると同時に私は見知らぬおばさんに背中を押され……なかった。
「痛っ」
背中を押すどころの話ではなく、私の体は体格のいいおばさんに押し退けられた。
全力でぶつかってこられたわけではないけれど、それくらいの衝撃を受けた私の足は自分を支えきれずにふらついてしまう。
「…………」
道の端に追いやられた私が辺りの様子を確認すると、ヨーロッパの中でも田舎町を思い起こすような風景に自分という人間が染まっていることに気づく。
「え……」
それなのに、私はほぼ学生時代の体操着のような服装。
服装だけは世界観に少しも染まっていなくて、これが夢じゃなくて現実だとしたら恥ずかし過ぎて、二度とこの街を歩けなくなる。
自分の両手で体を覆ってみようと努力はしてみるけど、二本の両手で自分の体を覆うことなんてできるわけがない。
(着るもの、着るもの、着るもの……って、体操着は着てるけど!)
記憶が確かなら、私は自分の部屋で貯金残高と睨めっこをしていた。
食費を切り詰めて、絵を描くための機材にお金を費やそう。
そんな計画を立てていたはずなのに、どんなに周囲を見渡しても、どんなに頬を抓ってみても、私は見慣れた自分の部屋に帰ることができない。
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