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「っていうか、すぐに食べれる物を持ってきてくれた方がありがたいんですけど」
「料理は出来立てが美味い」
前世で、食べることに興味を持ってこなかった私
ディナさんの出来立てが美味いという言葉が、聴覚を突き破るように私の耳に突き刺さる。
(食べ物が温かくても、冷たくても、どっちでも良かった……)
前世での怠惰な食生活を振り返りつつ、ディナさんが料理を作る姿をアルカさんと一緒に見守る。
「あ、ミリちゃん、火の魔法を使う機会かも」
アルカさんとの別れを覚悟していた私とは違って、アルカさんはいつも通り。
出会ったときと変わらない優しさを、私に手渡してくれる。
「ど……どうやって魔法を使えば……」
「願えばいいと思う。呪文とかいらないから」
「願う?」
「調理用の火をくださいって」
そんな単純な魔法がありますか?
冗談がお上手ですよねと返すよりも早く、アルカさんの言う通り、願うだけで調理用の炎が手のひらに誕生した。
「熱くないんですね……」
「戦闘用に火力を上げると熱くなるけど、調理用の火程度ならほんの少し熱を感じる程度でしょ?」
まるで火の玉を自由自在に操っているような面白さがあるものの、いつまでも遊んでいたらディナさんに叱られてしまう。
私は急いで、ディナさんの元へと調理用の火を運んでいく。
「助かる」
「……どういたしまして」
「どうした?」
「いえ……」
無愛想な印象を与えるディナさんだけど、こうしてお礼を言ってくれるところは人として素晴らしすぎて言葉を失う。
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