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(でも、なんとなく自分が何に該当するか想像できる……)
食費を切り詰めるためとはいえ、記憶がないくらい何日も前から碌な食事をしていなかった。
(多分、異世界転生……)
真っ先に思いつくのは、自分が食事だけは疎かにしていたという謎の自信。
現代日本を生きていれば、ほんの少し偏った食事をしていても生き残れるものだと自分の体を過信していた。
碌な食事をしていなかった結果、死亡するなんて顛末を辿るなんて誰も想像していなかった。
(でも……)
肝心の、異世界のことを説明してくれる神様も女神様も案内人すらも登場しない。
ごはんとパンがあるという情報を得たところで、体操着のポケットに手を突っ込んでもお金は出てこない。
無一文な私は、食事をすることすらできないということ。
(働かざる者食うべからずという言葉は知っているけど……!)
このままでは、空腹に打ち勝てずに死んでしまう。
異世界に転生やったー、新しい人生の始まりよ、なんて未来への展望を抱いている余裕は今の私にはない。
(せっかく二度目の人生が始まったのに、このまま三度目の人生に突入するのかも……)
あまりの空腹に耐えきれず、私は人々の邪魔にならないように道の隅っこで屈みこむ。
前世の終わりで記憶に残っているのは、お腹が空いたという言葉。
(新しく始まった人生の終わりも、お腹が空いたで終わっちゃうのかな……)
神様。
せっかく恵んでくださった命が、空腹で力尽きそうです!
「大丈夫?」
視界に影が、差し込んでくる。
これでもかってくらい太陽の光が降り注ぐ世界だったはずなのに、私の視界に人影というものが映り込んできた。
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