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(前世も、お腹が空くことはあったけど……)
生きているのなら、お腹が空くことは当たり前。
でも、食べなくても平気だと思い込んだ時期があったのは事実。
だから、食費を削ってしまった。
食費を削って、夢のために投資をした。
けれど、生きるための資本がなっていなければ、夢を叶えることすらできないのだと気づかされる。
(うぅ……気づきが多すぎて、情けなくなってくる……)
夢を叶えることが、私の人生の最優先事項。
夢さえ叶えることができたら、私は美味しい物を食べられるようになる。
その夢は、あっけなく費えてしまったけれど。
「お待たせ~……えっと、名前は……」
私を助けてくれた艶やかな淡い青色の髪が特徴的な男の人は朗らかな笑みを浮かべながら、両手で何やら美味しそうな香り漂う土鍋を持っている。
「は? 名前も知らない女性を連れてきたのか?」
「だって、自己紹介してる場合じゃないって思ったんだよ!」
私を空腹で殺す気満々であろう男性は鋭い目つきを私に向けていたけれど、その視線は笑顔が爽やかな彼へと向いた。
「ほら、まずは食事から」
「ありがとうございます……」
名前を名乗るタイミングを逃すと、こうも機会を伺うのが大変だということに気づかされる。
あとでちゃんと自己紹介しますからと心で謝罪をしながら、私は用意してもらった土鍋の蓋へと手を伸ばす。
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