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(土鍋がある世界……)
視界いっぱいに広がる世界は西洋風の建物が並ぶ世界でも、自分が生きてきた世界と馴染みのあるものが登場すると自然と涙が動きを見せそうになる。
(こういうのをホッとするっていうのかな……)
自分の感情というものがポンコツすぎて、これでマンガ家を目指していたとか。
今日は反省すべきことがたくさんあって、私の涙は益々加速していきそうで困る。
(雑炊か何かかな……)
滲み始めた瞳が、鍋の中から立ち上がる真っ白な湯気に覆われていく。
眼鏡をかけているわけではないのに、私の世界が白く染まっていく感覚にわくわくした。
「いただきま……」
涙を隠してくれた水蒸気が落ち着きを見せる頃、私は親しみある箸を鍋へと運ぶ。
そのとき、あることに気づいた。
(……雑炊じゃない)
こんなにも前世と似通った食材が揃った異世界に転生するなんて、神様は優しいのか意地悪なのか分からない。
「うどん、ですよね?」
「うどん以外の何に見えるんだ?」
「いえ……」
ちゃんと食べなかった前世。
食べることよりも、優先したいことがあった。
大切な夢があった。
それは確かに自分が選んだ人生だけど、いざこうして美味しい食べ物を用意されると申し訳ないって気持ちが生まれてくる。
「ありがとうございます! いただきますっ!」
私を産んでくれたお母さんに、お父さんに。
ごめんなさいって謝りたくなる。
ちゃんと食べて長生きをしないと、夢まで失うことになるんだよってことに私は気づいていなかった。
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