ご注文はパンですか? ごはんですか? いえ、『うどん』です。

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「君は?」  ゆっくりと咀嚼して、自分の名前を名乗る準備を整える。  心と体が、うどんの愛で満たされた今なら。  きっと、今までで一番綺麗な声で名前を名乗ることができる気がする。 「ミリです」  前世のお父さんとお母さん。  正直、実莉(みり)って名前を発音するのが難しかった。  ミオリとか、ミノリとか、言いやすい名前にしてほしかったなって思ってこともある。  でも、異世界にやって来た私は、って名前で良かったなって心から思うよ。 「ミリちゃんね」 「はいっ!」  だって、私を優しくしてくれる彼は、私の名前を躊躇うことなく綺麗に呼んでくれるから。  発音のしやすさって、意外と大事ですよ。  お父さん、お母さん。 「ほら、ディナも呼んであげなよ」 「意味が分からない」 「ごめんね、照れ屋で」 「照れてない」  お父さんとお母さんからもらった命を台無しにしてしまった私。  だけど、異世界に転生できたってことには意味があると思い込む。  今度こそ幸せになるために。  私を産んでくれた、お父さんとお母さんに誇れる生き方ができるように。  異世界での転生生活、頑張ってみます。 「で、どうやって食事の金を払うんだ?」 「う……」 「俺が払うって言ったよね? 俺が連れてきた、お客さんだから!」  異世界生活一日目。  いただいた食事の代金を払うための手段がありません。
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