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隊列の前を行くガイウスは、フードの縁を上げてヴァレンス城を見上げた。陰鬱な冬の曇天の中、その鮮やかさが何とも物悲しい立ち姿をしていた。
城壁まで、ガイウス隊はさしたる抵抗もなく到着した。
ヴァレンス城の状況については、アクィナス公爵からの情報であらかた把握していたが、思った以上に敵側が手薄な状況に、罠かと思うくらいだった。あまりにスムーズに到着したので、ガイウスはヴァレンス城の主に対して、気味の悪さを感じた。
守るべきものを守らない主の存在ほど、領地を乱す元凶である。そのような貴族の存在は、ガイウスは口にこそ出さないが、内心毛嫌いしていたのだった。
現在のヴァレンス城は、城主のイーサン・ヴァレンス侯爵に代わって娘婿のアルヴィン・ヴァレンスが城主代行をしていると聞いていた。その者と対峙することに、ガイウスはこれまでにないほど身構えていたのに、肩透かしをくらうと同時に、嫌悪を感じていた。
敵からの抵抗がなくても、ガイウスは用心のため、いつでも戦闘が行えるよう城壁の外に部隊を配置し、2か所の門から精鋭の者を侵入させた。
少しずつ届く報告は、どれも驚くものだった。
まず、城内に人がほとんど残っていなかった。武装している者は皆無で、わずかに残っていたのは使用人が数名だった。彼らは、抵抗もせずにガイウス隊の兵士に言われたとおりに、一室で怯えて指揮官の指示が待っていた。
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