ゴーストライター

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 * * * * 「南雲誠一郎さん?」  指定された喫茶店で待っていると、背後から声をかけられた。振り返るとそこにはパンツスーツを着た女が立っていた。 「もしかして殺し屋──」  彼女は自分の唇に人差し指を当て、それ以上の発言を制止する。 「外では掃除屋と呼んでください。もし誰かに聞かれたら困りますので」 「ああ、すまん」  掃除屋の女は、向かいの席に座ると注文を取りに来た店員にコーヒーをひとつ注文し、やって来たそれを上品な所作でひと口飲んだ。  殺し屋と聞いていたからもっとハードボイルドな男がくると想像していただけに拍子抜けだった。その姿は殺し屋というより仕事ができるキャリアウーマンを連想させる。 「女性だったんだな、こりゃあ驚いた」 「よく言われます。でもこんなスーツを着て身なりを整えた女が掃除屋だとは誰も想像できないでしょ? だから結構便利なんですよ」 「確かに。推理小説でも“まさかこの人が”というキャラクターを犯人にした方が面白くなる」 「さすがおっしゃることが作家先生ですね。今日も取材ということですし、次回作は掃除屋が主人公なのかしら」女は上品にふふふ、と笑う。
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