ゴーストライター

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 売れっ子作家にもなると、移動は出版社が用意した運転手付きの車がやってくる。こうして後部座席でふんぞり返っているだけでどこへでも連れて行ってくれるというのは、自分の業界での地位が目に見えるようで気分がいい。しかも移動中は、同乗している担当者がつきっきりで相手をしてくれるから退屈もしない。 「いや、こちらこそありがとう。読者の生の感想が聞けてよかったよ。君も準備があって色々大変だっただろう」 「いえ、先生の為なら苦ではありませんよ。それにいらっしゃった読者のみなさんの喜ぶ顔を見ると疲れなんて吹っ飛んでしまいました」 「殊勝なことだな」  全部、お世辞なのはわかっている。彼らは次も自社から私の本を出したいから私の機嫌を取るのに必死なのだ。  信号で車が止まった。視線を窓の外に向けると、ビルの壁面に大きな広告が出ていた。 『人気作家・南雲誠一郎(なぐもせいいちろう)のあのベストセラーが待望の映画化!』  もうすぐ公開が迫っている実写映画の広告だ。人気の俳優をふんだんに使い、主題歌は今をときめく人気シンガーを起用するほどの力の入れようと聞いている。
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