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担当者の問いに私は、うむ、と唸った。肉もいいし、和食も良さそうだ、オシャレにフレンチというのもありかもしれない。食べたいものはいっぱいあるが、いざ何が食べたいかと聞かれると迷ってしまう。たっぷり三分間悩んだ末に私は「寿司がいい」と答えた。
「最近は忙しかったからな、贅沢もあんまりしてないんだ」
「お寿司ですか、いいですね。美味しい店知っているんで、そこにご案内しますよ」
担当者はすぐさま寿司屋に予約の電話を入れる。彼は本当に仕事が早いな、と思っているとポケットの中のスマートフォンが震えた。
手にとって見てみると、メールが届いていたようだった。発信者の名前を見て、私は思わず息を飲む。
そこには諸星真也という名前と共に短く一文だけ『今夜、伺います』と記されていた。
頭が痛い問題だ。せっかく新作を世に発表して、ひと安心したところだったというのに。
「悪いが」と私は担当者に声をかけた。「今夜の食事はキャンセルしてくれ。予定があったのを忘れていたよ」
「予定ですか?」
「ああ。せっかく予約してもらったのに悪いな」
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