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「南雲先生の新作、ずっと楽しみにしていたんです!」
目の前に立つ若い女性の言葉に私は、「ありがとう」と答え、サインしたばかりの単行本を渡した。「これからも応援よろしくね」
女性は、興奮気味に「はい!」と言うとまるで家宝のように単行本を胸に抱えて去っていった。
私は作家をしていた。今日は新作の発売を記念してのサイン会だった。午前の部と午後の部で百人ずつ。合計二百人分のサインを書くのは骨が折れる。
だが、部屋にこもって仕事をする私にとって、こうして読者と触れ合えるというのは数少ない機会だ。ファンである彼、彼女たちに直接会うというのは刺激的で創作意欲を掻き立てるのにもいい。私が売れっ子作家として小説界に君臨し続けれるのもファンあってのことだ。だから、いくら疲れようともこういう機会は大切にしたいと思っている。
「南雲先生、本日はありがとうございました。お疲れになったでしょう」
帰りの車の中で出版社の担当者が恐縮しきった様子でいうのを私は、右手首をマッサージしながら聞いていた。
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