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してはいけない恋をしている。
叶うはずのない恋をしている。
「なつめ、こんばんは」
姉さんと暮らす部屋を訪ねてきたのは、姉の彼氏──水樹 涼──だ。
十二歳の時、両親が借金を苦に夜逃げするように蒸発してから、十三歳離れている姉の──葉梨あずさ──が、看護師をしながら親代わりに俺を育ててくれた。
俺はそんな姉さんを尊敬して、自身も姉と一緒に暮らしながら奨学金で看護学校に通う二十二歳。
涼さんは生命保険会社の商品開発部に勤めていて、姉さんが務める病院に肺気胸を患って入院した。
肺気胸は肺に穴があいて空気が漏れる、若くて背が高く痩せた男性に起こりやすい病気で、涼さんが入院してきた病室の担当が姉さんだった。
二人はすぐに親しくなり、付き合い始めて二年と少し。
姉さんも涼さんも同い年の三十六歳で、二人が付き合いだしてから涼さんは度々、姉さんと俺の部屋を訪れていた。
そして俺は、涼さんに恋をしていたりする──。
姉さんにも言えていないことだけれど、高校生の時分から恋愛の対象が同性であることに気付いていた。
本当の弟のように俺を可愛がってくれる涼さんのことをいつしか好きになってしまっていて、憧れのはずだったのに、気付けば恋愛のそれになってしまっていて。
でも、涼さんは姉さんの大切な人。
決して、してはいけない恋だし、叶わぬ恋だとわかっているから、適当にマッチングアプリなんかで知り合った男と関係を持って、涼さんから目を逸らそうと努力している。
つい最近も、ネットで知り合った彼氏と別れたばかりだ。
全然、未練も執着もない、ただ涼さんから意識を離すためだけに付き合っただけの男だから悲しくもなんともないけれど。
「こんばんは、涼さん」
笑顔を向けると、涼さんは優しく微笑んでくれて。
でも──。
それ以上に笑顔になった姉さんが涼さんの元へ歩み寄る光景に、俺はいつも胸が痛んで、罪の意識に苛まれていた。
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