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足枷は外されたけれど、涼さんの家から離れることはしなかったし、出て行ってと言われたけれど、俺は涼さんの傍にいることを選んだ。
涼さんはもう、俺のことを〝あずさ〟と呼ばなくなったけれど、代わりに〝キミ〟と呼び続けた。
どこまでも、涼さんは〝なつめ〟を認識してくれない。
なつめという存在は、もう涼さんの中で消え去ってしまっているのだろうか。あずさだった何かとして、ただ傍にいる俺は一体何なのだろう。
でも──。
「……んっ、涼さ……っ」
胡坐をかいた涼さんの屹立に指を添わせて自ら貪欲に呑み込もうと、わずかに恥じらいながらスラリと伸びた足を開いて腰を蠢かせ、ぬちっと水音を立てながら硬い脈を招き入れる。
涼さんは、俺を抱くことを止めはしなかった。
慰みもののように、何かから目を逸らしたいみたいに毎日俺の身体を求めて抱いた。
「キミが動いてくれる?」
欲情しているせいなのか、普段でも充分に艶っぽい涼さんの低い声が、今は更に色を含めて鼓膜に響くので身体はどんどん熱を帯びる。
ゆっくり頷いて、涼さんの首に腕を絡ませて腰を浮き沈みさせると、己の体重を乗せての結合に、いつもより深みを抉られて背筋に鋭い快感が走る。
でも、もうその〝キミ〟という呼び名が嫌で。
「りょ……さ、ん……っ、も、俺を……思い出してっ……くださ……」
途端、涼さんに激しく下からガクガクと突き上げられて、中を擦る摩擦と垂直に奥を穿たれる狂おしい快楽に思考が飛びそうになったけれど、でも──。
「キミは何を……言ってるの?」
荒い呼吸を繰り返す俺とは裏腹。
涼さんはどこまでも冷淡な声で首に腕を絡める俺を昏い瞳で刺し込むように射抜きながら、畳み掛けるように突き上げられて「んっ、……ぁ、ん」と鼻にかかった声が漏れて涼さんにこっちを向いてもらえない。
もう、すっかり涼さんの形を覚え、涼さんの牡で達することに溺れている身体が精を吐き出そうと震える。
「もっ、キミ……嫌なんですっ……は、ぁっ……なつ、め……俺はっ……なつめっ……んっ……だからっ……」
また、パチンッと乾いた音が響いて頬を叩かれたのだと気づいたのと同時、涼さんの熱い飛沫で最奥を濡らされて、でも、俺はまだ達けていないのに、涼さんが中から退いていく。
「ふざけないで。あずさに似てるからって調子に乗らないでくれる? キミがどんなにあずさに似ていてもあずさはもう帰ってこない。僕が抱いているのはあずさのダッチワイフだよ?」
涼さんは、俺を見てくれることはないのかな。
どうしたって、姉さんの代わりの何かにしかなれないのかな、どう頑張っても俺は何かの代わりなのかな。
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