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まだ解放されない熱の苦しさと、ダッチワイフだなんて言われた虚しさと、色んな感情が込み上げて涙がこぼれた。
涼さんが下肢を拭う様を横目に見遣りながら俺は自身を握りしめて指を滑らす。
半達き状態だったそれは、すぐに「っ……んっ!」と、制御すら不能な吐息と共に掌に精を吐き出し、一人で達したやるせなさと脱力感と共にシーツに沈み込む。
奥を濡らされた白濁を掻き出しにシャワーに行こうと立ち上がると、ベッドの隅に座った涼さんがポツリと呟いた。
「もう……こんなの限界だ……」
その瞳は生色を宿しておらず、どこか儚げで、このままでは涼さんが消えてしまうのではないかと焦って抱きしめる。
「涼さん……大丈夫です。俺が傍にいますから。俺に傍にいさせてください……お願いだから……。どこにも行かないでください……涼さん……」
「キミは……一体何? 僕の何?」
何だろう。
俺は涼さんの何だろう。
「何者でもいいです。涼さんの傍にいられるなら……姉さんでも、性道具でも……何でもいいです。涼さんが狂うなら、俺も道連れにしてください」
涼さんの瞳からまた綺麗な涙が伝って、それを指で拭ってあげたら、後頭部を引き寄せられて掠めるように唇を塞がれた。
「そういえば……なつめは元気かな? あずさのたった一人の弟だ……僕が傍にいてあげなくちゃ」
なつめは、ここにいるよ。
ちゃんと涼さんの傍にいるよ。
「なつめはちゃんと涼さんの傍にいます。涼さんがわからないだけで、ちゃんと傍にいます。姉さんのように離れて行ったりしません。だから安心してください。涼さん」
抱きしめる腕に力を込めると、涼さんは静かに涙を流し続けた。
俺は、涼さんを一人にしないから安心して?
涼さんが俺のことを誰なのかわからなくても、俺はちゃんと涼さんの傍にいるから、ナニモノにだってなるから、安心して?
涼さんが壊れるなら俺も一緒だよ?
──どこまでも、道連れにして?
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