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「俺、油断してた。なつめが、涼さんのことずっと好きなのは聞いてたけど、涼さんはお姉さんの旦那だから絶対になつめのものにならないって油断してた。お前がテキトーな男と付き合ったり別れたりしてても本気じゃないんだから、親友の俺が一番なつめの近くにいるって油断してた。でも──」
言いながら、新がTシャツの裾から手を這わせてくる。
「お前がこんな風に涼さんに依存するんだったら、俺はもう親友のポジションじゃいられない」
「待って、待って! やだ! 新!」
必死に抵抗を試みるけれど、片手で一括りにされた弱った両腕は、逞しい友人の前ではビクともしなくて、Tシャツが喉元までまくり上げられて、殆ど裸身を晒してしまって。
「俺と一緒にここを出よう? なつめ。お前のことは俺が守るから。なつめの壊れた心は俺が治すから」
「やっ……だ! 俺は涼さんとずっと一緒にいる! 涼さんと離れる気なんかない!」
ジタバタ暴れると、新が胸を口に含んで、たちまち全身が粟立つ。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
俺に触っていいのは涼さんだけで、涼さん以外の誰かに触られるなんて、侵されるなんてしちゃいけない。
そんなことになったら涼さんが悲しむ。
でも、そこで、ふと思った。
──涼さんは本当に悲しむだろうか、と。
俺は涼さんだけを見ているけれど、涼さんは俺を見ていない。
俺が新のものになろうが、涼さんには何のダメージもなくて、涼さんにはどうでもいいことなのかもしれない。
俺が勝手に涼さんに溺れているだけで、涼さんには俺が新に何をされようが関係ないことなのかもしれない。
だけど──。
俺は涼さんしか見えていなくて。
「お願い、やめて! 新!」
けれど、新は制止を無視して胸の飾りを舌で舐りながら、片手を下腹部の中心に這わせてきて。
チュクッと水音を立てて胸から唇を離した。
「なぁ、俺のものになれよ、なつめ」
「嫌だ! 俺は涼さんだけのものだ!」
なのに、新は冷ややかな視線を俺に向けて。
「──でも、涼さんは、お前を見てないんだろ?」
その明確たる事実を他者から突き付けられることで、まざまざと現実に包まれて、瞳から涙がこぼれた。
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