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座り込んだまま、はらはらと綺麗な涙を流す涼さんの傍まで駆け寄って、焦って抱きしめる。
涼さんの肩が、また覚束なく震えていた。
「涼さん……俺なら大丈夫です……。姉さんも俺も、涼さんが守れなかったわけじゃありません。全部事故だから……自分を責めないでください」
「ねぇ、なつめ……さっきの人は誰?」
涼さんを抱きしめる腕に力を込めてみても、震えは止まらない。
「すみません……。俺の友達です。一人でいるのが苦しくて……俺が部屋に入れました。だから、涼さんのせいじゃありません。俺が悪いんです」
「でも……なつめは、なつめが、ずっと僕の傍にいてくれた……。僕は……なつめに何をした……?」
涼さんが俺の背に腕を回してきて……やっと、やっと涼さんが俺を認識してくれた……それが嬉しくて涙がこぼれる。
「何もされてません。俺は涼さんが好きだから……だから、良いんです。涼さんは姉さんを失ったショックで少し疲れていただけだから……だから、良いんです」
「僕の傍にいてくれたのはなつめだって……本当は心のどこかでわかってた……。でも、楽になる道を選んだ。全てから逃げる道を選んだ。あずさの大切な、なつめを苦しめていても……」
──え?
涼さんが何を言ったのか、すぐに咀嚼できなくて、目を瞠ってしまうと、涼さんが俺を抱きしめる腕を弛緩させた。
涼さんは俺がなつめだって、ちゃんとわかっていてくれたの?
「涼さん……本当ですか? 本当に俺がわかりますか?」
「なつめ。僕の傍にいてくれてありがとう。でも──」
呆然としていると、フラフラッと立ち上がった涼さんがキッチンへ向かうので、どうしたんだろう?と慌てて俺も後を追う。
そこで──。
涼さんが、包丁を手に握った。
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