327人が本棚に入れています
本棚に追加
眩い空間の中に俺はいた。
涼さんと姉さんが幸せそうに並んで立っていて、俺は二人を微笑ましく見つめて、心の底から二人の幸せを願って。
だけど、次第に姉さんの上からドロドロの真っ黒な雨が降ってきて、涼さんが手を伸ばすけれど姉さんは瞬く間に溶けて行った。
雨はたちまち涼さんの頭上までをも覆って、俺は傘を開いて駆け寄るけれど、涼さんも溶けて行って。
やがて眩い空間にいた俺の頭上にも雨が降ってきて。
ドロドロと溶けていく傘を、足を、腕を、呆然と見つめるけれど三人で消えられるなら幸せだ……このまま消えてしまえればいいと、そっと目を閉じる。
そこで、朧気に瞳を開けると、今度は真っ白な空間が瞳に映った。
目の前にカーテンが引かれていて、そっと腕を見遣ると点滴の針が刺さっていて。
──ここは?
みるみるうちに頭が覚醒していき、涼さんが倒れて、俺は救急車を呼んで、そこで記憶が途絶えて……。
「涼さんっ!」
大声で叫んで半身を起こすと、「葉梨さん⁉」と白衣に身を包んだ女性が声をかけてきて。
「葉梨さん、わかりますか?」
「俺……は……? 涼さんは……? ねぇ⁉ 涼さんは⁉」
看護師が、「落ち着いてください、葉梨さん!」と俺の両肩を押さえ込んできて、突然半身を起こしたせいか酷い眩暈に襲われる。
すぐに看護師が院内PHSで医師を呼んで、駆けつけてくる。
「葉梨さん、わかりますか? 極度の栄養失調です。安静にしてください」
「俺のことはどうでもいいんです! 先生! 涼さんは⁉ 涼さんは大丈夫ですか⁉ 俺の……俺のせいで……」
医師が沈痛な面持ちを見せて、その表情に絶望感のようなものを覚える。
「立てますか? 水樹さんに会いますか?」
ゆっくり頷いて起き上がり、点滴をぶら下げたまま医師の後ろに着いていくと、一室の前で立ち止まってそっと室内に入った。
そこで──。
最初のコメントを投稿しよう!