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いつも別々の部屋で寝ていた俺たちだけれど、その夜は涼さんの部屋のベッドに同衾した。
涼さんがそっと俺を抱きしめて、口付けてくる。
下唇を吸い上げるようにしてから歯の先で柔らかく噛まれ、唇の隙間から忍び込んできた舌に応えるとじっくりと咥内を舐め回されて、水音を立てながら離れた。
「なんか……初めてって気がしないのは何でだろう? 僕は男の抱き方を知っているんだ……。何でだろう?」
それは、俺と散々身体を重ねていたからですよ、なんて言ったら涼さんは混乱するだろうか。
涼さんには俺は片想いだったと言っているのに、身体を重ねていただなんて言ったら、壊れていた時の涼さんを想起させるだろうか。
涼さんにとって記憶が戻らないことは不幸なことなのに、俺は今の優しい穏やかな涼さんのままでいて欲しいと思ってしまうのは自分勝手だろうか。
──自分勝手、だな。
「涼さんは記憶を失う前、俺を抱いてくれていました」
キョトンとした顔で涼さんが俺を見つめてくる。
「どうして? 僕はなつめくんのお姉さんと結婚していたんだよね?」
「姉さんが死んで……俺に面影を重ねていたんです。涼さんは少し疲れてしまっていたんです」
涼さんが沈痛な面持ちで俺を見つめてくるから、安心させるように、そっと背に腕を回して撫で擦った。
「……僕は、なつめくんにそんな身代わりみたいなことをさせていたの? キミにそんな酷いことをしていたの?」
柳眉を顰めて、湿っぽい声で俺の顔を覗き込んでくるから、宥めるように背中を優しく叩いてあげると、涼さんの肩が僅かに震えていた。
「俺は涼さんが好きだったから……だから幸せだったんです。でも、今はもっと幸せなんです。涼さんが、本当に俺だけを見てくれて」
ゆっくり、涼さんが俺の半袖のパーカースウェットをまくり上げて腰に手を這わせて、ゾクゾクするような駆け上がる快感にただ身を委ねる。
「……ごめんね、なつめくん。僕はもうこれからはずっと、なつめくんだけを見ていくから。ずっと僕の傍にいて?」
指が胸を掠める甘やかな刺激に、「ぁ、……ん」と艶冶な声が漏れて、その吐息ごと唇を奪われた。
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