いつか本当の俺を見てくれますように~たとえ身代わりだとしても、恋情に溺れて~

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 (あらた)から連絡があったのは、実習中の昼休みの時だった。  あんなことをされたんだから、『なつめ、会える?』というメッセージに返信するか迷ったけれど、仮にも親友だった存在だ。  『夕方なら会えるけど、外でいい?』と返信すると、ファストフード店を指示されて。  実習が終わったそのままの足で、ハンバーガーチェーン店に向かうと、新が入口に立っていて「よう」と声を掛けてきた。  俺は何て言葉を掛けていいかわからず「……久しぶり」と返事をして二人でハンバーガーを注文して、二人掛けの席で相見(あいみ)る。 「この前は本当に悪かった」  第一声、新が発した言葉は謝罪だった。  何も返事が出来ずにいると新がそのまま言葉を続けて、「俺、なつめに無理矢理あんなことして……どうかしてた。でも、わざと(りょう)さんが帰って来そうな時間に邪魔した。あれで涼さんの目が覚めないかと思って……」と、顔を伏せた。  確かに、あの行為で涼さんは俺を認識した。  いや、正確には我に返ったというのが正しいだろう──涼さんは、俺がなつめだという事実から逃げていただけだったことに気が付いたから。 「あの後さ……涼さんが死のうとしたんだ。姉さんも俺も守れなかったから生きている資格がないって。それで、止めようとしたら涼さんが頭ぶつけて倒れて……。俺もそのまま意識失いかけて、何とか119番して病院で目覚めたんだけど、そしたら──」  俺はメロンソーダを一口、口に含んで、そっと言葉を続けた。 「涼さんが、ショックで記憶喪失になった」  新が、大きく目を(みは)った。 「記憶喪失……? なんだよそれ……。お前たち……今、どうなってるわけ?」  幸せ、だよ。  もしかしたら、束の間の──。
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