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「涼さんは、最初は自分のことさえ忘れてしまっていた。でも……俺と新しい記憶を作っていこうって言ったら受け入れてくれて……。〝涼さん〟っていう自身の記憶は戻って今は仕事にも復帰してて……。それで、姉さんと俺のことは思い出せていないけれど、新しい生活の中で俺を好きになってくれた。今、幸せなんだ」
新が、何か考える素振りを見せて、ハンバーガーの包みをカサカサと開いた。
「思い出したら……どうすんの?」
確信を突かれるような、自分でも最も恐れているその言葉に、胸が痛む。
「……うん。俺もそれを恐れてる。もし、思い出したら……また俺は姉さんの身代わりになるか、もしくは捨てられるか……って」
小さく吐息をこぼすと、目の前の逞しい友人は俺を憐れむように見つめて、そっと口を開いた。
「なぁ、俺さ……なつめを好きな気持ちは本当なんだ。俺はゲイじゃないけど、なつめはなんていうか……特別なんだ。でも、お前が涼さんのことマジで好きなのもわかってるから……無理矢理あんなことしたけど、涼さんがまた駄目になったらいつでも俺のとこに来ていいからな?」
新のところに……。
そんなことは考えてもいないし、無理矢理あんなことをした新をまだ許しているわけでもない。
俺はやっぱり涼さんに自分を見て欲しいし、たとえ記憶が戻ってまた身代わりにされるか捨てられるとしても、有限な時間の中で少しでも長く涼さんの傍らに居たい。
「ありがと。でも俺は涼さんだけを見てるから……新のことは正直まだ許せない。新のせいで涼さんは記憶を失ってしまったから……。でも新のお陰で今、涼さんは俺を見てくれているわけだから……。複雑だけど、まぁ、いずれまた友達には戻りたいとは思ってる……かな。今はまだ……前みたいには接することは出来ない」
新が少し俯いて、「そっか……まぁ、そうなるわな」と呟いた。
涼さん、俺はずっと涼さんを見てるから……。
だから、お願いだから記憶が戻っても傍に置いて──。
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