いつか本当の俺を見てくれますように~たとえ身代わりだとしても、恋情に溺れて~

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(りょう)さん、ただいま……」  そっとリビングの扉を開けると、涼さんがソファに項垂(うなだ)れて座っていて、俺を見るなりすぐに傍に駆け寄ってきて抱きしめられる。 「なつめ……もう帰ってこないかと思った……。あずさのように居なくなってしまうのかと思った……」  (なだ)めるように涼さんの背を(さす)る。 「涼さん……俺のこと……まだ好きですか?」  腕の中の涼さんが尋常じゃないくらいに震えていて、どうしたらいいものかと抱きしめる腕に力を込めて震えを止めようとしてみるけれど、止まってはくれなくて。 「僕は……なつめを好きになった……。でも……僕はあずさもなつめも守れなかったんだ……。どうして生きているの? 僕はあの時死んだはずだよね? 罪を償ったはずだよね? どうして生きているの?」 「涼さんに罪なんてありません! 姉さんも俺も……ただ不運だっただけです……涼さんには何の責任もありません」  涼さんが噛みつくように口付けてくるから、すぐに唇に間口を作って慰めるように舌を愛撫してあげると、そっと唇が離れた。 「僕は……なつめと新しい記憶を作って……なつめを好きになったのに……記憶を失う前の僕は償いきれないことをしていた……。どうして、なつめはあんな僕の傍にいたの? どうして逃げなかったの? なつめがあんな僕を受け入れなければ……僕はなつめを傷つけずに済んだ……。こんなに……なつめが好きなのに……あずさへも……背徳行為をしてしまった……」 「俺は涼さんが好きだったから……。どんな涼さんでも好きだったから……全部、俺の意思で涼さんの傍に居たんです。俺だって姉さんに罪悪感はありました。でも、それでも涼さんが好きだったから……。悪いのは、姉さんから涼さんを奪った俺なんです」  壊れ物に触れるように涼さんの綺麗な涙を指で拭ってあげたら、俺の手首を掴んで手の甲に口付けられて。 「なつめ……僕は……どうしたらいい? どうしたらいいのかわからないんだ……。なつめを愛してる。でも……あずさが……」 「……やっぱり……姉さんが好き、ですか?」 「僕は……あずさを愛してる……だけど、なつめが好きな気持ちは本当だよ? 信じられない?」  どこか仄暗い顔で俺を見下ろした涼さんが、おもむろにテレビボードに向かった。
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