いつか本当の俺を見てくれますように~たとえ身代わりだとしても、恋情に溺れて~

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「なつめっ!」  ふわりと温かな腕に包まれたと思ったら、俺が手にしていたガラス片を駆け寄ってきた(りょう)さんが奪い取るように握りしめて、その(てのひら)から血が(したた)っていた。  瞳から、堰を切ったように涙がこぼれる。 「どうして……? 止めないでくださいよ……涼さん。俺が全部悪いんです……。俺が、姉さんのところへ謝りに行きますから……」  涼さんが、血塗れになった掌で俺の頬に手を添えた。  掌から滴る血が俺の顎に伝って、真っ白なカットソーの上に(あか)い染みを作った。 「……なつめ……僕は確かにあずさを愛してる。でも今は……生きて傍にいてくれるなつめを愛していきたいと思ってる。この気持ちは嘘じゃない。ねぇ、あずさに謝るなら僕も一緒だよ? 一緒に、謝りに行こう?」  ──それって、涼さんと一緒に死ぬってこと? 「だめです……。涼さんは生きて、そして姉さんのこと、ずっと忘れないでいてあげてください。俺のことは忘れてもいいから……」  絶え間なく流れ続ける涙を、涼さんが血塗れの掌で絶えず拭い続けてくれるけれど、涙も血も止まらなくて、カットソーに次々染みを作る。 「違うよ。なつめも僕も死なない。二人で生きていこう? 僕が言えたことじゃないけど謝るってことは死ぬことではないよ? もっと、あずさが喜んでくれる方法で……それから、僕たちのことを許してもらおう?」 「だって……そんなの……許されますか……?」  涼さんが俺の脇の下に手を差し込んで立たせた。 「なつめ。一緒にあずさのところへ行こう? あの日以来、僕たちはあずさと向き合えていなかった。僕はなつめを愛してる。なつめはどうかな? あずさの前で、僕に愛してるって言ってくれる?」  そんなの、姉さんの前でだって、どこでだって、俺はずっとずっと涼さんを愛してた。 「愛しています、涼さん。俺たちは……どうすれば姉さんに許されますか?」  優しく俺の髪の毛を()いた涼さんが目を細めた。 「もう逃げないで、二人であずさに許しをもらいに行こう?」
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