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着替えをして、涼さんの手を消毒して包帯を巻いてから、タクシーに乗って辿り着いたのは霊園だった。
海が望める眺望の良いその霊園には、涼さんが姉さんのためだけに建てた個人墓の洋一段オルガン型の洋式墓石で、正面に『愛』とだけ文字が刻まれている。
四十九日以来訪れていなかったその場所は、涼さんが清掃代行サービスを利用しているお陰で荒れ果てている様子もなく綺麗に磨かれている。
涼さんが柄杓で打ち水を終え、途中で買った菊、カーネーション、アイリス、キンセンカを華やかに二本の花立に供えると、香炉に一緒に線香を立てた。
涼さんと並んで墓石の前にしゃがみ込む。
「あずさ、久しぶり。ずっと来られなくてごめんね? 寂しかったよね……」
そっと、涼さんが姉さんに語りかけるのを俺は黙って耳に入れた。
「愛してるよ、あずさ。でも、僕は自分を見失ってキミの大切なたった一人の弟を傷つけた。あずさは怒ってるかな? 本当にごめんね。だから──傷つけてしまった分、今はなつめが愛おしくて仕方がないんだ……」
視界がじわじわと霞み出す。
「姉さん、俺に怒ってる? 涼さんを奪ったこと、怒ってる?」
涼さんが優しく俺の頭を引き寄せて掠めるだけの口付けを落とした。
「あずさ……僕、なつめを愛してるんだ。キミを守れなかった分までなつめを守っていくから、どうか見守っていて? 僕は、生涯なつめを守り抜くと誓うから」
その言葉にいよいよ眼に溜まった涙が頬を伝ってしまって、涼さんがそれを指で拭ってくれた。
「涼さん……姉さんの前で、告白してもいいですか?」
「うん。あずさに認めて貰おう? 愛してるよ、なつめ」
肩を抱き寄せられて、涼さんの胸に顔を埋めて涙声で言葉を紡いだ。
「俺も、俺は……ずっと愛してました。涼さん」
涼さんが再び俺の唇を塞いだと同時、不意にヒュッと風音が聴こえた。
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