いつか本当の俺を見てくれますように~たとえ身代わりだとしても、恋情に溺れて~

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「ただいま、なつめ」  試験勉強中、仕事から帰ってきた(りょう)さんをリビングの扉の前まで出迎えるといつものように抱きしめてくれる。 「おかえりなさい、涼さん」  俺の身体を抱きしめる温もりは確かなものだし、優しく力強くもある。    確かなものなのに、どうして抱いてくれなくなっちゃったんだろう……。  でも、こんなことを俺から訊くのは恥ずかしいし、涼さんには涼さんなりの考えがきっとあるんだろうから。 「夕飯にしようか、なつめ。勉強続けて? すぐ支度するから」  何とか笑顔を取り繕って、「ありがとうございます」と返事をすると涼さんは着替えをして夕飯を作り始めた。  俺は思わずテーブルに突っ伏して、涼さんに見えない角度で盛大な溜め息を吐いた。  本当、(あらた)の言う通り欲求不満なのかもしれない。  涼さんの作ってくれた夕飯を食べ終えて、お風呂に入っていたのだけれど、すぐ傍にいるのに抱いてはもらえない身体は欲を持て余して。  いつも適当なネットの男がいたからこんな風に禁欲したこともない。  仕方なく、バスチェアに座ると熱を持ちかけている下肢(かし)の中心を握りしめて優しく這わされる涼さんの慰撫(いぶ)を思い出しながら指を(すべ)らせていく。  左手は風呂で上気している色付いた胸の飾りをクニクニと(ひね)たり押し潰したりしていると、すぐに「んっ……はっ……」と声が漏れて、みるみるうちに先走りが溢れて右手を汚す。  己を慰める姿が鏡に映って含羞(がんしゅう)の色が浮かんだけれど、眠る時は涼さんと一緒だから熱を吐き出せる場所はここしかない。  やがて指の中で硬く熱い芯がびくびくと痙攣を始め、こらえきれない鼻にかかった甘い吐息とともに吐精してしまう。  (てのひら)に吐き出された白濁を見て、すぐさま虚しさを覚える。  涼さんはどうして俺を抱いてくれなくなってしまったんだろう?  十三も年下の若い身体は涼さんを欲して仕方がなくて、でも涼さんは俺を求めてはくれなくって。  ──涼さんの〝愛してる〟は偽りなの?  なんて、自分勝手な疑いを持ってしまったことに嫌悪したら涙が滲んで、慌ててシャワーで頭から流れた涙と汚れた右手を洗い流した。
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