いつか本当の俺を見てくれますように~たとえ身代わりだとしても、恋情に溺れて~

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 お風呂から出て寝室の扉を開けると、先に入浴を済ませていた(りょう)さんがベッドの中で文庫本を読んでいた。  俺が近付くと優しく微笑んで、「おいで、なつめ」と布団をまくって促してくれるので隣に寝そべる。  すぐに温かい指が俺の髪の毛を()いて、穏やかな瞳で顔を覗き込んでくれるし、その慈しむような双眸(そうぼう)には愛を感じる。  だけど──。 「……涼さん」  そっと名前を呟くと「うん?」と優しい声音で返事をしてくれるから、勇気を出して遠回しに強請(ねだ)ってみる。 「俺……涼さんの愛が欲しいです」  それを聴いた涼さんが、どこか切ない顔をしながら俺の瞳を見つめて、頬に手を添えて(さす)った。 「愛してるよ? なつめ。どうしたの?」 「だったら……」  甘えるように涼さんの足に自分の足を絡ませてみるけれど、抱きしめる以上のことは何もしてくれなくて。 「今日のなつめはどうしたの? 何かあった?」  涼さんは、何も思わないのだろうか。  もう俺に欲情してはくれないのだろうか。 「……ううん、何でもないです。涼さん、おやすみなさい」  胸に顔を(うず)めると涙がこぼれそうになって、それを隠したいみたいにぎゅっと涼さんのパジャマの胸元を握りしめた。  (なだ)めるように背を(さす)ってくれた涼さんが、吐息をこぼすように小さな声でポツリとこぼした。 「……ごめんね、なつめ」  「え?」と訊き返そうとしたけれど、そのタイミングを与えたくないかのように涼さんはリモコンで照明を落とし、優しく俺を抱きしめた。  涼さんは何に対して謝ったの? 「涼さん……何で──」  その言葉の続きは、塞がれた唇に吐息ごと吸い込まれていった。 「おやすみ、なつめ」  たちまち言いようのない不安に掻き立てられて肩を震わせると、抱きしめる腕に力を込められた。  涼さんは何を考えているんだろう──。  何か俺に言えないことがあるのかな。
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