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「なつめ、僕、週末実家に帰ろうと思うんだけど一人で大丈夫?」
そう問われたのは金曜の夜のことだった。
涼さんの実家は隣県になるのだけれど、またどうして急に実家に帰るんだろう?と目を瞬かせる。
「涼さん……何かあったんですか?」
問い掛けてみても涼さんは歯切れ悪く言葉を濁すばかりで、帰省する理由を教えてくれない。
「うん……。ちょっと今は言えないけれど大切な用があるんだ」
大切な用……?
たちまち胸の中が、ザワザワと考えてはいけないことが濁流に呑まれるように不安に掻き立てられていく。
本当? 本当に実家?
もしかしたら、涼さんは姉さんを見ているわけでも俺を見ているわけでもなくて別の誰かを見ている?
でも、俺に接してくれる態度は確かに愛を込めてくれているのは確信しているから、ますます訳がわからなくなってくる。
「俺は……一人で大丈夫です。でも……どうして涼さんが実家に帰るのか知りたいです。……駄目、ですか?」
潤んだ瞳を向けると涼さんがベッドの中にいる俺を抱きしめて柔らかく髪の毛を梳いた。
「ごめんね……今は言えないんだ。でも、ちゃんと話すから。今はまだ、告げてもなつめを不安にさせるだけだから」
──隠される方が不安になるんだけどな……。
なんてワガママはきっと言っちゃいけないんだと思ったから俺はその言葉を呑み込んだ。
「……涼さん。俺のこと愛してますか? 俺は涼さんに捨てられたりしませんよね?」
涼さんが俺の額に口付けた。
「僕はなつめを愛してるよ? 捨てるはずがない。誓ったよね? あずさに。僕は生涯なつめを守り抜くからって」
確かに、涼さんは最愛の姉さんの前で誓ってくれた。
その言葉に嘘はないと信じたいし、俺だって涼さんの傍らに生涯一緒にいたいから。
「涼さん……」
熱っぽく名前を呼んで誘うように涼さんのパジャマの裾から肌に手を這わせてみたけれど──。
涼さんは、そっとその手を制した。
涼さんの考えていることが全然わからなくて、瞳から思わず涙を伝わせてしまうと、静かに指で拭われた。
やっぱり、男じゃダメなのかな……。
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