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涼さんから電話が鳴ったのは、朝見送ったその晩だった。
一人寂しく不安に掻き立てられていた俺は、慌てながら鳴動するスマートフォンの受話器マークをスワイプした。
「もしもし? 涼さん……?」
『なつめ、一人で大丈夫? 僕はちゃんと実家に着いたよ。それで、さ。僕たちのことで大事な話があるんだ』
――俺たちのことで大事な話?
最近の俺たちのことを考えたら、もしかして別れ話だろうかとじわじわと視界が霞んで何も言葉を発せずにいると、涼さんがそのまま言葉を紡いだ。
『僕、なつめのことを生涯守るって言ったよね? 今日、実家に帰ってきたのはケジメをつけるためだったんだ。ちょっと電話代わるね?』
電話を代わる? 誰に?と戸惑っていると電話の向こうから『なつめくん?』と、姉さんの葬式の時に聞いた涼さんのお父さんの声が聴こえた。
「ご、ご無沙汰しております……」
突然のことに頭が追いつかなくて、簡単な挨拶しか出てこなくて、どうして涼さんのお父さんが俺に?とソワソワしてしまう。
『涼に話を聞きました。なつめくんと涼の関係について』
えっ? 涼さんが帰省した理由ってまさか……?
「は、はい……俺と涼さんは……」
『経緯は聞いています。涼は……なつめくんを愛していると言っていますが……正直、息子が男を……更にはあずささんの弟であるキミを愛していると、生涯を共にしたいと言われて驚いています。けれど……なつめくんがどれだけ涼に献身的に尽くしてくれたのかを聞いて……戸惑ってはいるけれど、息子の意思を尊重したいと思っているんです。なつめくんも、本当に同じ気持ちなのかな?』
涼さんがそんなに真剣に、ご両親にカミングアウトするほど俺との将来を考えているのだと聞いてたちまち涙が浮かんで。
「……はい。姉の旦那さんを……俺なんかが奪うような真似をして……男の俺が涼さんを繋ぎ止めるようなことになってしまって……申し訳ございません」
男同士で十三も歳が離れていて、更には涼さんは一人息子なのに、孫も望めなくなってしまったご両親にとっては不幸でしかない話なのに――。
『そうか……なつめくんも真剣なら、私たちはもう何も言いません。今度、二人で会いに来てくれるかい? 涼には、あずささんを失った分まで自由に幸せになって欲しいと思ってるんです』
涙声で「……すみません。ありがとうございます。今度改めてご挨拶に伺います」とだけ告げると、電話が再び涼さんに代わった。
『なつめ。理由も言えなくてごめんね? もし親に反対されたら、なつめを傷つけてしまうと思って言えなかったんだ。でも、ちゃんと許しをもらえたから……明日、帰ったらなつめに大事な話がある。聞いてくれる?』
「……はい……涼さん。俺……凄く嬉しいです。本当は……涼さんのこと、疑ってしまっていました。ごめんなさい……」
電話の向こうで涼さんが優しい声音で『僕の方こそ、何も言わずに勝手に行動してごめんね? 僕が愛してるのはなつめだけだよ? 明日、なるべく早く帰るから。ゆっくり休んで?』と囁いた。
切れた電話を耳に当てたまま、まるで夢の中にいるような浮遊感に涙がこぼれた。
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