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涼さんが帰ってきたのは夕方だった。
玄関の開く音がして、走ってリビングの扉を開けて涼さんと視線が絡まるなり涙がこぼれて。
すぐに涼さんが俺を抱きしめて涙を拭ってくれて「ただいま、なつめ」と耳朶を甘噛みしながら囁いた。
「んっ……おかえりなさい、涼さん」
腕を引かれてリビングのソファに座るように促されて、真剣な瞳で見つめられるので「涼さん?」と小首を傾げた。
「なつめ。帰ってきたら大事な話があるって言ったよね?」
コクリと頷くと、ソファに座る俺の前に跪くようにしていた涼さんに掠めるだけの口付けを落とされた。
「――ね、なつめ。左手、出してくれる?」
言われるがまま左手を差し出すと、涼さんが着ていたシンプルな白のボートネックシャツのポケットからリングケースを取り出した。
「涼さん……それって……」
「見て? ちゃんと『R to N』って刻んであるんだ。あずさの遺品じゃない、なつめだけの指輪だよ? 準備に時間がかかって、実家に行くのも遅くなっちゃって……なつめのこと、不安にさせて待たせてごめんね?」
言いながら、俺の左手の薬指に指輪を嵌めてくれた。
あの日、嵌められていた偽りの愛だった足枷ではない、本当に俺を愛してくれている証を。
「……涼さん……ありがとうございます」
思わず涙をこぼすと、涼さんがそっと言葉を紡いだ。
「なつめ、愛してる。僕と家族になってくれる? 本当の意味ではなれないけれど……気持ちだけでも」
何度も何度も頷くと、涼さんが自分の指に嵌まっている姉さんとの指輪を外して、俺にくれた指輪と対になっている指輪を差し出してきた。
「これを、なつめが僕の指に嵌めてくれる?」
ゆっくり頷いて、涼さんの左手の薬指に指輪を嵌めるときつく抱きしめられた。
「涼さん……愛してます。ずっと傍にいてくれますか?」
「当たり前だよ? なつめ。僕が生涯守っていくからずっと傍に居て欲しい」
抱きしめられている涼さんの背に腕を回して「じゃあ――」と呟くと涼さんが「うん?」と耳元で囁いた。
「シてくれますか?」
耳孔に舌が挿し込まれて、涼さんがクスクス笑った。
「ずっと待たせたね? 身体からの関係からなんて不誠実かなと思って……。あの日、あずさの前でキミを守るって誓った日から、この指輪を渡してケジメをつけるまで我慢するの大変だったんだよ? なつめ、何度も発情して誘惑してくるし」
途端、火がついたように顔が真っ赤になって。
「……意地悪。俺はもう涼さんと二人でいるだけで発情しています」
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