334人が本棚に入れています
本棚に追加
目が覚めるともう朝になっていて、明け方まで絡み合っていたはずの涼さんの姿が隣になくって。
淫靡な夢でも見ていたのだろうか?と呆然としてしまったけれど、身体中に残る確かな倦怠感と、最奥に受けた涼さんの形がまだ残っている。
寝室の扉を開けてリビングへ向かうと、涼さんはソファに座っていた。
「おはようございます、涼さん」
少しだけ照れ臭くなりながら声を掛けると涼さんが振り返って、「おはよう、なつめ」と優しく微笑んでくれて隣に座るよう促される。
ふと見ると、涼さんの指に昨日外した姉さんとの結婚指輪が握られていた。
「なつめ、後ろ向いてくれる?」
言われるがまま後ろを向くと、うなじで涼さんの手がもぞもぞと動いて、姉さんの遺品である指輪のネックレスが外された。
「涼さん?」
涼さんがそのネックレスチェーンに手に持っていた指輪を引っ掛けた。
姉さんと涼さんの二つの指輪が連なったネックレスを、涼さんはリングケースに大切そうにしまい込んだ。
「なつめに、あずさの指輪のネックレスを付けててもらっていたこと、記憶を失っていたとはいえ本当に無神経だったよね……ごめんね?」
確かに姉さんの遺品を身につけさせられていることは、また姉さんの身代わりなんじゃないかって怖くもなったけれど、涼さんに他意はなかったことは知っているから。
「俺なら大丈夫ですよ?」
涼さんが優しく俺を抱きしめて、互いの指輪が嵌まっている手を握り合わせてきた。
「ねぇ、なつめ。僕にとってあずさは掛け替えのない存在だけど……今は傍にいてくれるキミが何よりも大切なんだ。ずっと身代わりにさせて本当にごめんね?」
「いいんです。何度も言ってるけど、俺はどんな涼さんだって愛してたし……これからも傍にいてもらえるなんて本当に幸せなんです。いつか――」
そこで言葉を切ると涼さんが背を擦ってくれながら「いつか?」と続きを促した。
「いつか、本当の俺を見てくれますようにって信じてたから」
「僕はもう、いつだって本当のなつめを見ているよ?」
慈しむように笑んだ涼さんに口付けられて。
――姉さん、涼さんは必ず俺が幸せにするから。
最初のコメントを投稿しよう!