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「――で。涼さんは親にカミングアウトまでしてくれて、なつめを抱いてラブラブ幸せ満開ってわけ?」
相も変わらず、ハンバーガーチェーン店で待ち合わせた新に、はにかみながら涼さんとのことを報告すると、やっぱり新はつまらなさそうに飲み干したアイスコーヒーの紙コップを揺らした。
「うん。俺たち、もう大丈夫。だから、さ。新にもちゃんとお礼が言いたくて」
新が少しだけポカンとした表情で俺を見つめた。
「俺、憎まれることはあっても礼をされるようなことはしてないけど?」
俺は手に握っていたメロンソーダを一口、口に含んで喉を潤してから、そっと言葉を紡いだ。
「うん。俺も新のこと、何て酷い奴だって思ってた。でも、やっぱり新がチャンスくれたような気がするから。涼さんの目を覚ましてくれたのはお前だから……。俺、新の気持ちには応えられないけど、ありがとう。もし、新が嫌じゃなかったら、また友達に戻ってくれる?」
新が逞しい腕で頭をガシガシ搔きながら溜め息を吐いた。
「あーあ。完全にお友達宣言か。まっ、なつめがどんだけ涼さんのこと好きだったのかは散々聞いてたし。元から俺のものになるはずがないのはわかってたから。俺の方こそ、よかったら友達に戻ってくれよ」
言いながら、右手を差し出してくれた新の手を握る。
にこやかに笑ってくれた新の顔は、あの頃の、親友だった頃の優しい笑みで心が温かくなる。
「ありがと。新には、ずっと涼さんとの惚気話聞いてもらうつもりだから、覚悟して?」
「はぁー……、わかりましたー」
また溜め息を吐いた新が可笑しくてクスクス笑ってしまう。
手に入れられるはずがないと思っていた涼さんがやっと俺の方を向いてくれて、俺は今どこまでも幸せで。
「俺さ、ずっと願ってたんだ。涼さんに、いつか本当の俺を見てくれますように……って」
「まぁ、そうだったわな」
俺はどこまでも心の底からの笑顔を新に向けて。
「それが叶っちゃって、今すごく幸せなんだ」
「はいはい、めでたしめでたし」
つまらなさそうに口を尖らせる新を他所に、俺はどこか遠くへ意識を飛ばして、ふと窓の外に差し込む日射しに目を向けると、そこはあの日夢に見たドロドロの雨なんかどこにも降っていなくて。
どこまでも、どこまでも眩しい青空に祝福されているようで。
ねぇ、涼さん――。
これからもずっと、本当の俺を見続けてくれますように。
- END -
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