館林圭一の演技

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館林圭一の演技

 俺の演技はこの仕事を始めると、眠っている間もするようになった、眠っている時ですら穏やかな人間を演じるようにしている。演技が身体の芯まで染み渡っている。  目が覚めてリビングに行くと俺は妻と娘に笑顔で挨拶した。今日も仕事以外は平和な一日になりますようにと深く祈りながら。 「おはよう、恵里、雪子ちゃん。今日も二人とも元気そうだね。お父さんも負けないように頑張るよ」 「おはよう、あなた。爽やかな朝ね」 「おはよう、お父さん。朝ご飯、早く食べようよ」  妻と娘の笑顔を見て食卓につくと、妻から俺のスマホを受け取った。俺は自分のスマホがないことに初めて気づいた。  妻にありがとうと伝えて、おいしそうな料理にゆっくりと箸を進めた。表情には決して出さないが、頭の中では様々なプランが浮かんでいた。  俺は伝説の殺し屋柊丈一郎というコードネームを持っている。家族を含めてあらゆる人間を騙しながら人を殺している。依頼料は高額を受け取るが仕事は正確にこなしていた。  長年、組織に属しているが、組織の最高幹部には会ったことがない。また同じ組織に属している殺し屋のことも知らない。しかし俺は伝説の殺し屋だ。俺より優れた殺し屋がいるはずがない。  さて今日から三人を殺す仕事をしようか。組織は隆盛に邪魔な存在に対して容赦がない。田所と山下と板尾を殺すように依頼を受けていた。田所は武器商人で政府からも睨まれている男だ。山下はさまざまなテロ活動を行っていて、田所と同じく政府が行方を追っている。  板尾は娘が通っている大学の同級生だった。まだ大学生なのに複数の闇組織と繋がり、大量の薬を捌いている。  俺は食事を食べ終わると柔らかな表情を浮かべた。 「今日もおいしい料理をありがとう。ご馳走様でした。着替えて仕事に行ってくる」 「行ってらっしゃい。今日もお仕事、頑張ってください!」 「今日も頑張ってね。お父さん!」  俺は妻と娘の無邪気な笑顔に喜びながら、家を後にして隠れ家に向かった。そして隠れ家に着くと三人に連絡をした。スマホを使う時に娘が俺のためにつけてくれたかわいいキーホルダーを見て頬が緩んだ。  電話番号と資料は組織を使って入手していた。また板尾が娘のことを好きなのは娘から聞いている。  麻薬王の板尾が純真無垢な娘に手を出すのは許せない。しかしそれを仕事に利用しようと思った。  銃を手に取り俺は仕事の重みを感じる。俺はいろんな人間から恨まれている。いつ戦闘になってもいいように銃を常に所持している。俺は依頼の成否が決まる一週間後まで隠れ家に籠ることにした。
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