田所義夫の不安

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田所義夫の不安

 俺は世界中に根を張る非合法組織に武器を流している。中東から密輸した銃火器をアジアの諸国に高値で売っていた。  しかし裏世界には厳しい規則がある。裏世界で生きたければ収入の九割を組織に収めないといけなかった。  そうしなければ殺されると組織から言われていた。しかし九割も払うのはあまりに馬鹿げている。  俺は組織の再三に渡る警告を無視して支払いを断っていた。すると組織は伝説の殺し屋と呼ばれている柊丈一郎を俺の元に送ると言ってきた。  俺はその名を聞いた時に心の底から震えた。裏世界で柊を知らない奴はいない。柊を見た者は必ず殺されるという噂が横行していた。しかしその真偽は確かめようがない。  柊という人物が存在しているのかどうかすら眉唾物だ。裏世界では脅し文句で使っているだけなのかもしれない。俺は一抹の不安を覚えながら組織の言葉を無視した。  俺は裏世界に身を投じてから三十年以上、多種多様な組織に銃火器を売り続けている。厳しい世界を生き抜く中で常に眉間に皺が寄る老練の渋い顔になった。  武器を捌く商売相手の館林という男から電話を受けた。館林が妙なことを言っていた。柊に狙われているから気をつけろと。また柊の姿を捉えた写真があるから教えてやると言われた。  俺は柊のことを長年、熟練の暗殺者だと思っていたが写真にはどう見ても二十代の男が映っていた。容姿端麗な茶髪の男だった。瞳が常人とは異なり暗く汚れている。  俺は柊に注意を払うことにした。館林から銃を携帯する方がいいと言われたので商売道具の使い慣れた銃を所持することにした。
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