山下堂庵の目的

1/1
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

山下堂庵の目的

 俺は世界をテロで変えたいと願っていた。世界では人々の貧富の差は激しくなり、富む者は金を掴み、貧乏な者は餓死するしかなかった。  政府に何度も低所得者を救う法案を可決するように申し出たが却下され続けた。俺はそのたびにテロ活動を行った。  俺は食うために人を殺さなければいけない極貧のスラム街で産まれた。金のない苦しさは誰よりも知っている。  劣悪な環境下でまだ子供だった俺は、ゴロツキ共に殴られて顔に深い痣ができた。その痣を指で触りながら、世界を変えたいと強く胸に誓った。  政府は俺を危険人物として捕縛しようしている。しかしその前に大規模なテロ活動を行って、この腐った世の中を少しでも変えたい。  しかし場所をどこで行えばいいだろうか。必要な爆弾も尽きて来ていた。そんな時に館林と名乗る男から電話がかかってきた。  或る大学の心理学科が近年起こっているテロについて独自講義を行うそうだ。その講義では如何にテロが悲惨で無謀な訴えであり、犯罪者の名声のための行為であるということを学生達に教えるらしい。  俺は怒りを覚え打ち震えた。俺は自らの名声など、どうでも良かった。ただ貧しい者に救いの手を差し伸べて欲しいだけだった。俺は今度の標的はその大学に決めた。  館林から柊丈一郎という男が狙ってくるから気をつけろと忠告された。裏世界で柊のことを知らない奴はいない。  館林にいつ柊と遭遇するかわからないので銃を持ち歩いた方がいいと言われた。俺はテロ活動を爆弾で行っていて銃を使ったことはなかったがそうすることにした。念の為と言われて柊の顔写真を送ってくれることになった。  年齢は四十代後半に見える。裏世界を生きてきただけあって、顔に鋭い皺が刻まれていた。姿からはまさしく歴戦の猛者という風体だった。俺は柊に最大限、注意を払うようにした。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!