板尾亮二の恋心

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板尾亮二の恋心

 俺は幼い頃から人の心を支配するのが好きだった。高校生になって初めて違法薬物の絶大な効果を知った。どんな屈強な男も薬の前には跪いた。  大学生になって裏世界に身を投じるようになった。薬は素晴らしい。大勢の人間を自由に操ることができる。  金は腐るほど手に入るが俺が求めていたのは人を奴隷化する薬の魔力だった。どんなに優れた人間でも一度薬を飲めば体も心も蝕み逃げられなくなる。  俺は薬で崩れる奴を見るのが愉快だった。俺の麻薬王としての地位は安定したものになりつつあった。  しかしそんな俺でもたった一人の女の気持ちを動かすことができなかった。館林雪子は俺がどれだけ好意を伝えても揺るがなかった。  俺は容姿が他の男達に比べて格段に優れていた。金は数えきれないほどある。俺は麻薬王ということを偽り一流企業に内定が決まっていることを伝えた。  他の男に俺が負けるはずがない。俺は雪子をどうしても自分の物にしたかった。  雪子をどうやって口説き落とそうかと悩んでいる時に一本の電話がかかった。薬を取り扱う末端の館林という業者からの電話だったが渡りに船の情報を得ることができた。  在学している大学で大規模なテロ活動が行われるらしい。そして好きな女がいるならこの機会に手に入れてはどうかと言われた。それはテロで危険な状態になった時に使える手法だった。  危険な状況の雪子を救うことができれば、俺の手に確実に落ちるだろう。命を救った相手ならどんな女でも身を委ねてくる。俺はテロ活動を行う予定の山下と連絡を取った。  山下は爆弾がないことを嘆いていた。館林から山下に田所という武器商人を紹介すればいいと言われていた。俺はその代わりに爆弾を設置する場所と規模を教えてもらった。テロ実行の日に山下に田所を紹介して、テロの最終確認をするために会うことにした。  また館林から柊丈一郎という男に気をつけるようにと警告された。裏世界で知らない者はもぐりだと言われるほどの凄腕の殺し屋だ。  館林に必ず銃を携帯した方がいいと言われたので仕事で時々使う銃を持ち歩くことにした。また人相書きが手に入ったので写真を送ると言ってきた。  年齢は三十代前半といったところか。額に黒いバンダナを巻いていた。顔には外傷の痕跡があった。瞳が信念を抱いているような強い光を感じた。俺は柊を見かけたら必ず殺してやろうと思った。
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