館林圭一の思惑

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館林圭一の思惑

 俺は言葉巧みに三人の犯罪者を騙した。俺は武器を使うことなく、スマホを使うだけで三人を容易に操った。  武器商人の田所に板尾の顔写真を柊だと伝えた。またテロ活動の山下に田所の顔写真を柊だと伝えた。そして麻薬王の板尾に山下の顔写真を柊だと伝えた。また田所に山下、山下に板尾、板尾に田所の本物の顔写真を送っていた。三人が面識がないことを俺は利用した。  一週間後、出会った三人は疑問を抱きながらも殺し合いをして三人とも死んだ筈だ。俺は全く手を汚さずに依頼を遂行した。まさしく伝説の殺し屋らしい手法だ。  俺は喜びに浸りながら帰路についた。玄関で娘が笑顔で迎えてくれることを期待した。しかしそこにいたのは肩から血を流した田所だった。  俺は目を剥いて衝撃を受けた。田所を狙う山下は銃を使ったことがなかったので失敗したのだろうと推測できる。田所は武器商人だから銃の扱いに他の奴より慣れていて板尾を殺した後で自分を狙う山下を殺したのだろう。  田所は鬼のような形相で俺を睨みながら銃を構えていた。その背後に娘が笑顔でいた。その笑顔を見て俺は頭の中の整理がつかなかった。  血を流している田所が父親に銃を向けているのを笑顔で見ている娘。どう考えてもおかしい。  田所が今にも銃の引き金を引こうとしていた。一触即発の肌がひりつく緊迫した空気だった。俺は田所に嘘をついてなんとかこの場を収めようとしたが娘が先に声を発した。 「三人の電話番号にかけたら田所さんが生き残っていたから、本当の柊丈一郎は私の父でもうすぐ帰ってくると教えてあげたの。田所さんは最初、知らない女からの電話で聞く耳を持たなかったけどお父さんの計画を全て丁寧に教えたら信用してくれたよ」  どういうことだ。なんで娘が俺の計画を知っているのか。その前に俺が殺し屋だと、どうして知っている? 「雪子、おまえはいったい何者なんだ。組織と通じているのか?」  娘に天真爛漫の笑顔を向けられた。年相応のあどけなさがあった。しかし瞳が小悪魔のようにぎらついていて息を呑んだ。 「お父さん。私と話すより早く田所さんを殺さないと殺されるよ!」
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