江良と峯

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江良と峯

 北側の校舎、3-Aの教室にはバンドグループ《Have a Cow》のメンバー3人が集まっていた。 「もう全部開けていっすか?」 「ええよ」  ベースの峯の命令で、窓は北と南の一箇所ずつ開けられる。そうした方が風が通るというわけだ。  面倒くさ、と呟きながら海子は他の窓も開けた。丘の上を吹く風が吹き込んでくる。遠くに水平線と、その上空を飛ぶトンビが見えた。  峯は風に揺れる海子のポニーテールをチラッと見た後、わざと大きく溜め息を吐いた。 「それにしても信じられん。一回相談せんかよ」  もう3回目だ。海子はそっとドラムの江良を見た。江良はカホンに座って、長い指でポコポコと側面を叩いていたが、その手を止めた。長い髪はリーフレタスをひっくり返して顔にかぶせたように見える。 「海子の言い分も分かる。峯やって、ドン・クロッシュもらえるんなら、手元のベース手放すやろ」 「当然」  江良は毎回、レアでベーシスト憧れのメーカーを引き合いに出して言った。峯も毎回同じ返答を繰り返す。  今、三年生の彼らは元々、二人で《エラトミネ》というグループでずっと組んでやってきた。そこに春から海子が入ったわけだ。
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