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近づいてくる人の気配に、海子の音が止まった。
ブリーチで色を抜いた短い銀髪が陽光に輝いている。ギターケースを背負った同年代の女の子が、無表情で海子の前に立った。
両耳に三つずつ付けたピアスの輪がキラリと光る。ついでに唇にも銀色の輪が付いていた。
「嘘やん......」
ずっとぽかんと口を開けていた海子は、やっと声を出したものの、掠れてしまった。蝉の声は相変わらずうるさいのに、二人の間は静かだった。
「テレキャスター、良い音だね」
彼女の口元が小さく笑う。海子はハッとして今日の取引のことを思い出した。
「『あっ、そう』の奏ちゃん?」
「うん」
「ええええぇぇええっ!?」
相手を指差して、有らん限りの声で驚く海子に、相手は一切驚かなかった。
「『あっ、そう』の奏ちゃん」とは、SNSで人気になってからメディアに出るようになった歌手だ。
一見不良のように見えるが、歌は『不満で始まって最後はありがとう』という流れのものが多い。「実は良い子」な内容がギャップを生んで人気を博していた。
「交換してくれる?」
奏は肩からケースを下ろし、留金を開けた。ドッシリとした瓢箪型のエレキギター。太陽に輝く青い色のボディの眩しさに、海子は顔を顰めた。交換品は間違いなくlesJohnstanderdだった。ネット画面に穴が開くほど見たモデルだ。
「本当に? これ、超フツーに出回ってるエレキよ」
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