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海子は立ち上がって片手でスカートの砂を落とし、もう片方でギターを少し高く掲げた。日陰から出ると、照りつける太陽に目眩がする。
「それ、そのマーク」
奏は暑さにも平気な顔でギターケースの金具を留めると、海子のテレキャスの下部に貼ってあるステッカーを指差した。古くて褪せた、迷彩柄の鴨のステッカー。
「これ? 買った時に貼ってあって、可愛かったからそのまましてたけど。これが何?」
「兄貴のマーク」
「は?」
「これ、兄貴のギター」
奏が交換を促す。海子はぽかんとしたままlesJohnstanderdを受け取り、たった今まで自分のだったギターを渡した。
「動画見て、見つけたって思った」
「すごい運命的やね。どうやっても目に引っ掛からんような動画なのに。ギターが呼んでたんかな」
流れる汗を手の甲で拭って、海子は笑った。奏はギターのボディを見たまま、感慨深く頷く。
「こんな田舎にまでお迎えか」
「どこまでだって行くよ。むしろまだ生きてたってことに驚き」
奏が弦をジャーンと鳴らす。蝉と遠くで鳴く鳶の声がBGM。
「ねえ、うち来たら? アンプあるし。私も早く鳴らしたい。とにかくかき氷でも食べんと死ぬわ」
「いいの?」
「向こうに自転車停めてる。奏ちゃんが二人乗り怖くなかったら、後ろに乗りなよ」
いつもテレビや動画で見る、無表情の奏は、友達に見せるような笑顔になった。
「すだちの曲みたいに、ゆっくり下ってくれるなら」
二人は自転車で長い下り坂をゆっくりと下った。
「考えてみたら、制服で来る必要なかったわ!」
海子の吠え声が青空に響いた。
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