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『あっ、そう』の奏ちゃんがメッセージの差出人と知って、玄関まで迎えにきた幸はダッシュで奥に戻って行った。
「あれ、うちの弟。引きこもりやけ、気にせんで」
「あたしの見た目が怖かったのかな」
「多分、違うと思うけど。入って」
地元の友達のように、奏は「お邪魔します」と段差のある玄関を上がり、しゃがんで靴を揃えた。真っ黒なサマーブーツには、金のチェーンのブーツアンクレットがついている。その輪の一つに鳥のチャームがぶら下がっていた。その隣に海子のスニーカーが散らかっている。
「海子のお家、大きいね」
「家って言うか、倉庫とかあるし、土地が広いよね。庭の草取りすると、ちょっとお小遣いもらえる」
奏は縁側の廊下から、庭の向こうの倉庫に格納されているトラクターを見ていたが、前を歩く海子のポニーテールに目を移した。
二人は台所でメロンソーダ味の氷菓を食べた後、海子の部屋に入ってそれぞれケースからギターを出した。
「Blackmoonのアンプがあるなんて、すごい」
「でしょ! スターになるって約束で、質屋のオヤジに、まけにまけてもらったんよ! まあ口から出まかせけどね!」
「海子すごい」
奏はいそいそとテレキャスをアンプに繋ぐ。その横で、海子はレスジョンを鳴らしてみた。
「うわあっ! なんじゃこれ! いい音〜」
海子が夢見ていたこのギターは、表がキルト杢目のメイプル材、バックはマカボニー材。音には重量感があった。
ハムバッキングのピックアップはノイズを削った低音を響かせる。パワーのある音で、昔、質屋で試弾した同種類のものより体に響いた。
「80年代くらいのアメリカ人マッチョって感じがする」
「79年製だから、間違いではないかも」
奏は小さく笑ってギターストラップを肩に掛けた。
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