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チューニングを確認したあと、スマホからドラムのリズムを流す。
立ち上がった奏は一瞬で『プロの空気』を纏った。激しいイントロから始まり、海子も聞いたことのある英語の詞を歌う。
奏の声は真っ直ぐで濁りがなく、力強い海子とは異なる声質だった。テレキャスの歯切れの良い音も、奏の声と合っていた。
海子は生唾を飲み込んだ。激しい声なのに水のようにスッと耳に入った。制服のスカートを、海子は知らず握り締めていた。
呆然としていた海子は、音がなくなるとハッとして大きく速く拍手した。
「すご、奏ちゃん」
「やっぱいいね。このテレキャス」
「ギターって弾く人で性格変わるな」
海子ははあー、と大きく溜息を吐いた。冷房の運転音が聞こえるほど静かになった。
「なんかショック。いろいろと」
奏はギターストラップを掛けたまま、黙って海子を見ていた。海子は手元のレスジョンを見つめたまま、乾いた声で笑った。
「結構、自分ではうまく歌ったり弾けたりしてると思ってた。ばあちゃんのカラオケ教室でも褒められてばっかで。でも実は......」
「海子と私は、カラーが違う」
奏が遮って言った。
「海子はパワー系だから、ギプソンのギターが似合う。レスジョンは海子にあげたいと思ったんだよ」
海子が顔を上げると、奏は笑っていた。耳のピアスがキラリと光った。
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