「あっ、そう」の奏ちゃん

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「そっか......」  心なしか残念そうな顔で、奏は頷いた。 「やりたいことって、何?」  ギターストラップを外してケースに入れながら尋ねる。手からギターが離れると、奏はまたほんわりした雰囲気に戻った。 「米の研究。白米の栄養価を増やす方法を考えたいって思っとる」 「へえ......。壮大な目標だね」 「そやろ。農業高校、卒業した後も、音楽は趣味の域か知らんけど」    海子はレスジョンのネックを握りしめながら呟いた。 「なんか。私が持っとくんも、もったいないかも」 「そんなこと、ないよ。海子に相応しいギターだから。持ってて」  二人は顔を見合わせて、それぞれのギターを確認した。 「なんか、一緒に歌わない? せっかく真空管アンプもあるし」 「......そやね! 奏ちゃんとセッションとか、贅沢すぎるわ!」 「やりたい曲ある?」 「あるある! 山ほどある!」  蝉が他所に飛んでいってしまうくらいの大音量。海子と奏はお腹の底から歌って歌って、歌った。
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