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「チッ……。このクソみてェな顔のポスターを貼りまくるか。デュボワ殿のお目に留まるようにな。あァー、お前よく啼く割に口が固いなァー? あいつの情夫なんだろ? さすがにこんな、」
しゃべりながら顔に一発入れてくる。
「かわいい情夫の顔がめちゃくちゃになってんの見たら、デュボワ殿の心も痛むだろうと思ってな」
は? 呆れた勘違いをしてるな、こいつら。
「お前みたいな男のどこがいいんだよ。だがご指名なんだろ? ボディガードはお前。寝室に立ち入るのを許可されてんのもお前だけって」
取り巻きから嘲りの忍び笑いが漏れる。馬鹿だろ。一人は寝室に立ち入れるルールにしとかなきゃ万一の初動が遅れる。それがたまたま俺だっただけ。
これは仕込まれた陽動。「お前みたいな男のどこがいいんだよ」と思っても陽動には気づけない、不憫な奴らだ。本当に。俺みたいな、いくらでも替えの利く人間が選ばれるわけがない。
「ご執心らしいなァー? 過去にお前に手出した人間、『消える』らしいなァ……」
ニタニタと笑みを向けられても、そんな話は知らねぇよ。
「お前、陸軍にいたのか? お前の部隊の上官、ごっそり消えたってな。記憶が飛ぶまで暴漢にボコられた奴もいるとかァー? こーんな不細工な情夫によほど……ご執心か」
取り巻きはゲラゲラ笑い出した。笑ってやりてぇのはこっちだよ。牽制のために仕込んだ噂に決まってる。
あー、俺があいつの「情夫」だから、エサのつもりで俺をポスターに仕立てようってことか。馬鹿が多いな。あいつはそのエサにはかからねぇ。
「学のないお前に家庭教師をつけてやったとか」
ボディガードとはいえ無知を晒すとまずいからだ。俺が「小説を読んでみたい」なんてぽろっと言わなくても、家庭教師の予定はあっただろう。あー。読みかけの小説のことを思い出しちまった。オチがわからないまま死ぬのかよ。辞書を引くつもりの単語もあったんだがな。
この世の未練なんて、それくらいだ。そんな人生。
セージは天才だ。そして狡猾で残酷だ。計画のためなら誰だって切り捨てる。だからあいつは悪の天才なんだ。俺はいつかこうなることもわかってて、あいつに付いたんだよ。
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