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初仕事のあと、あのガキ……セージはなぜか俺をお気に召したようだった。俺が飲んでるとフラッと現れる。小汚いボロを着て、フレームの歪んだサングラスで左目だけを隠している。ストリートチルドレンに化けてるんだろう。
「ガキはミルクでも飲んでろ」と言うと素直にホットミルクを飲む。暖色に照らされて、肌も目も髪も、ミルクを溶かしたようなやわらかい色合いだった。
そのうち、スレた目をした少年から、不敵な笑みを浮かべた青年になった。そしてセージは、この猥雑な街に巡らされた真っ黒犯罪ネットワークの「ボス」の座に腰を据えた。
ネットワークであって組織ではない。マフィアの構成員からこぼれ落ちたクズ、酔いどれ、詐欺師、偏執的なスリ常習犯……。どこにも所属しないどうしようもない奴らを、見えない糸でまとめ上げたのがセージの功績。
「おれの目で見透かすんだ。どんなクズがどの裏道に転がってるかを、全部。暗いところほど、よく見える。だろ?」
このジョークがあいつのお気に入りだ。セージのサングラスに隠された左目は、瞳孔が縮まない。頭にデカい怪我をして以来そうなんだとか。眩しさに弱い。その代わり、夜目が利く。誰よりも。
セージの糸に絡め取られた奴らは、指示系統を知らない。それどころか、自分が指示で動いていることに気づかない。苛立ったマフィアどもが探れば探るほど、「オレは『ボス』は知らないんですよぉ!」という悲痛な叫びを聞くハメになる。
俺はなぜか「ボス」の側近という栄誉に与った。アジトに探偵事務所の看板をかける。探偵事務所と言ってしまえば、俺みたいなゴツいのが出入りしても「ボディガード」と言える。事務所に勤める数人が「ボス」の姿を知る側近のすべてだ。
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