第1話 ボートのふたり

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この男は、自分よりずっと若く、体力もある。 つまり、もし衰弱して死ぬとしたら、おれの方が先だろう。 いや、その時までこいつは待つだろうか? 船医も避難の時、無意識に商売道具、つまり診療かばんを持ってきていた。 船医はコックの傍に座ると、診療かばんを開けた。 かばんの中で、メスの鋭い刃先に銀色の月明かりが反射していた。 船医は、かばんの中をしばらくじっと見つめていた。 そして、ズボンの革ベルトをするすると抜いた。
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