第1話 ボートのふたり

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「でも、どうして・・・」 ・・・どうして、真夜中に診療かばんを開けたのか?コックは、そう尋ねようとして、やめた。 何の気なしに、だって? そんなはずはない。 かばんには、鋭いメスが入っているのだ。 それをどう使おうとしたのか、聞くまでもないだろう。 とは言え、コック自身も夜包丁を手に、寝ている船医をじっと眺めたことが、一度や二度ではなかった。 「なんだ?」と、船医が言った。 「どうして・・・どうして、ワサビとソイソース(醤油)を持ってこなかったかな、と思って」 ボートのふたりは、はじめて笑った。 ふたりは魚を釣って生き延び、数日後に救助された。 定型文で始まる物語は、やはり平凡な結末に終わるものだ。 〜第1話 終わり〜
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