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10.ブレンダは天然で鈍いのかも
がっちり叱られて、尻や鼻筋を叩かれたカーティスは、しょんぼりしながら玄関前に蹲っている。猫が好きなのは理解したので、一番度胸があるオレンジを近づけてみた。
出会い方が悪く威嚇されたが、危害を加える様子がないと判断するとオレンジが譲歩した。蹲るカーティスの鼻先へ座ったのだ。その上、肉球によるパンチのサービス付き。これは猫好きにとってご褒美だが、カーティスも同じように感じたらしい。
「僕、感激した!」
「小さい動物にいきなり近づいたら怖がるから、そっとね。そぉっと……」
アイカの注意も聞きながら、カーティスはオレンジに目を細めた。巨大生物なので目も大きいが、オレンジは怯む様子がない。その姿を見て、ブランがゆっくり近づいた。まだ腰が引けているが、じりじりと距離を詰める。
カーティスは忠告された通り、動かずに待った。ブランの前足が持ち上がり、ぽんとカーティスの蹄を叩く。すぐに引っ込めたが、匂ったり確認するともう一度近づいた。カーティスが犬系だったら、全開で尻尾を振っただろう。
ノアールは怖がって近づかないけれど、これも個性だから仕方ない。猫達と交流するカーティスを放置して、アイカは家に入った。細い筒に丸めて運んだ書類は、家の中に転がっている。トムソンが役所から受け取ったままの形だった。
ブレンダは器用に中身を取り出すと、食器を利用して紙を広げる。丸まりそうな四隅を固定し、じっくりと読んだ。覗き込むアイカも不思議と読める。日本語なのかな。その程度の感想だった。ただし、平仮名だけの文面なので読みづらい。
「ここにアイカの名前と、下に猫達の名前と特徴。それから住所は私が書こうね。保証人も私でいいかい?」
「お願いします」
トムソンはお茶をぺちゃぺちゃと飲みながら、視線をよこす。協力するぞと合図を送っているのだが、書類に夢中のブレンダは気づかなかった。
さらさらと書いてみせれば、ブレンダが目を見開く。
「こっちの文字なんざ、いつ覚えたんだい」
「それが、私の知ってる文字なんです」
「……そんなことあるんねぇ」
首を傾げるブレンダだが、理由など知るはずもない。ただ「便利でよかった」「新しく覚えるのは大変だから」と喜んだ。
届出書類を作成すると、トムソンは再び筒を体に括り付けた。ブレンダは一刻も早くと願っている。叶えるのは自分の役目と、四つ足で走り去った。
「トム爺さんって、いい人なんですね」
「そうなんだよ、いい奴なのさ。早くいい嫁さんが見つかるといいんだけど」
「え?」
アイカは驚いてブレンダを見つめる。巨大な熊と、大型犬くらいの狼。お似合いかと問われたら首を傾げるが、明らかにトムソンはブレンダに惚れている。言動のあちこちに滲んでいるのに、ブレンダって天然なの? アイカは考え込んだ。
恋愛は外から余計ないことすると拗れるよね。でも教えたら意識し合うかも……いやいや、もうすぐ気づくと思うし。
ぽっと浮かんだのは、良かれと思って間に入ったけれど三角関係になった事例。たしか、呟き鳥のサイトで見たんだっけ。うん、余計なおせっかいはやめておこう。気づかなかったことにしよう、とアイカは決めた。
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