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12.よそ様のお子さんを馬扱い
カーティスは夜になると消えて、早朝また現れた。家は意外と近いのかも。そう思ったアイカだが、この家から見た地平線の辺り……と説明を受けて驚いた。毎日通う距離なのだろうか。それほど猫に魅了されたなら仕方ないけれど。
「遠いですね」
「そうさねぇ。私やあんたは遠く感じるけど、カーティス坊やなら数十分の距離さ」
時間で示されると、通勤圏内かな? と思ってしまう。あ、坊やってことはまだ通学? それ以前に、ここは学校じゃないし。
「カーティスは学校とか行かなくていいの?」
「ん? 学校なんざ通うのは、金持ちと暇人だけだよ」
「……なるほど」
お金と暇に溢れてる人達……つまりごく一部の人みたい。アイカが納得する間に、ブレンダは家の裏から荷馬車を引っ張り出した。手伝いに向かうと、朝食の入ったバスケットを渡される。
「猫は留守番できるんかね」
「平気ですよ。水とご飯があれば待ってます」
トイレ砂は、本物の砂を入れた箱を用意した。三匹分用意していたら、一緒はダメなのかと驚かれる。この世界で猫を飼っている人がいないのかと尋ねたら、ブレンダは知らないようだ。本物の猫と言われるくらいだから、猫獣人は会ってみたい。
アイカは期待を胸に、荷馬車へ朝食と毛布を積み込んだ。家の窓で見送る可愛い三匹に、挨拶をする。
「ちょっとママ、出かけてくるから。大人しくしててね」
にゃーんと愛らしい返事をしたのはブランだけ。オレンジはむすっとした顔だし、ノアールは眠っていた。こういう薄情なところ、好き。アイカの呟きに、ブレンダが肩をすくめた。
「ほらいくよ」
「はーい」
走って荷馬車に乗り込む。馬の代わりにカーティスが荷馬車を引くようで、しっかり繋がれていた。
「え? いいの?」
「何が問題なのさ」
「そうだよ。僕だって荷馬車を引くくらい出来るんだからね」
うん、本人が気にしてないならいいや。アイカの疑問は「よそ様のお子さんを馬扱いしていいの?」だが、当事者がやる気だった。
走り出した荷馬車は驚くほど跳ねる。一緒に乗り込んだブレンダは慣れた様子で毛布を敷いて座り、私を引き寄せた。あれだ。西部劇で観た丸い幌屋根の荷馬車である。御者は不要のようで、ブレンダは昼寝を始めた。
カーティスの訪問が早かったので、確かに眠い。荷馬車に直に寝たら、身体中が痣だらけになりそうなアイカも、ブレンダの毛皮に包まれれば安心だった。うとうとする二人を乗せ、カーティスはひた走る。
道がなかった草原を抜け、荷馬車は大きく揺れながら轍に車輪を載せた。その揺れで目を覚ましたアイカが、大きく伸びをする。砂利道の中央は草が生えているが、農道のような一本道を走っていた。
「この辺は通る人が多いんですか?」
「街へ買い物に出る人や逆に売りにいく人が通るからね。整備したわけじゃないんだが、自然とこうなったのさ」
アイカが幌の間から覗いた景色は、人の手が入ったとは思えない草原のままだった。獣道ってやつかな。獣人だと、獣人道? 言いづらいから獣道でいいか。アイカはくすくす笑うが、大きく揺れたタイミングで無言になった。
噛んでしまった頬の内側が、ものすごい痛い。涙目になりながらブレンダのお腹によじ登り、丸くなった。事情を察したブレンダは、何も言わずに髪を撫でてくれた。
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