13.この街で初めての珍獣ニンゲン

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13.この街で初めての珍獣ニンゲン

 街は想像していたより大きかった。特に外壁や塀らしき境は見当たらない。入り口も受付や門はなかった。走ってきた道がそのまま、街の中へ伸びていく。 「カーテイス、止まっとくれ。荷馬車は置いていくから」 「わかったぁ」  ブレンダの声がけで馬車が停止し、慣れた手つきで革のベルトが外される。ぐねぐねと体を動かしたカーティスは、すぐに駆けていった。 「いいの?」 「ああ、問題ないよ。少し先に自宅があるのさ」 「へぇ」  カーティスが住んでいるなら、さぞ大きな家だろう。そう思いながら、アイカは周囲を見回した。なんだろう、注目を集めている気がする。目が合いそうになると逸らされるんだけど、遠巻きに観察されているような……。 「悪いね。この街にニンゲンは初めてなんだよ」 「そうなの?!」  驚いたアイカの声に、ざわっと住民達から声が上がった。この街を一言で表せば、精巧な着ぐるみの巨大アトラクションだ。兎や犬、豚、牛などの馴染み深い動物から、動物園でしか知らない虎やコアラに似た動物まで。半数以上が二本足でこちらを見ている。 「買い物しちゃおうかね」 「ブレンダ、私……出歩いてていいの?」 「何か悪いことするんかい」 「しない」 「じゃあ、問題ないさ」  外見の熊らしく、彼女は豪快なタイプで太い神経の持ち主だった。ブレンダ自身は、アイカが悪いことをしないと思っている。周囲が多少騒がしいが、特に気にしなかった。  日本人はあれこれ協調して空気を読むのが一般的だが、アイカはその枠から外れている。ブレンダがいいって言うんだから、問題ないよね。あっさりと納得してブレンダと手を繋いだ。 「逸れたら、近くの店の人に熊のブレンダを呼んでくれと泣きつくんだよ」 「あ、うん」  めちゃくちゃ子ども扱いされている。日本人は若く見えるというけれど、獣人相手でもそうなのかな。アイカは首を傾げたものの、反論する余地はなかった。実際迷ったら困るし、対策を事前に教えてくれたのは助かる。  きょろきょろしながら歩く街は、様々な国の建物が乱雑に混じった感じだった。煉瓦造りの家の隣は木造住宅だし、その向かいは石を積んでいる。と思えば、馬小屋のように半分オープンな家もあった。ブレンダの家に似たログハウスも見かける。 「まずは服だね。それから本物の猫の食事を探して……ああ、そういや気になってたんだ。本物の猫ってのは、服を着ないのかい?」 「私が知る限り、自分からは着ない。着せる人もいたけど、うちの猫達は嫌がるよ」 「じゃあ、猫達の服はいらないね。それから……食料品の配達手配と」  ブレンダはメモ用紙を手に進む。まず立ち寄った服屋で、採寸された。尻尾も耳も毛皮も持たないので、測りやすいと喜ばれたのは複雑だけど。数日で作れるから、届けてくれるらしい。 「取りに来るんじゃないんだね」 「ああ、配達専門がいるのさ。カーティスの両親もそうだよ」  健脚で荷物をたくさん運べる種族は、配達の仕事をしていることも多い。種族ごとに住む場所が違うため、街以外に住んでいたら配達を利用する。緊急便もあると聞いて、某密林通販を思い浮かべた。ここだとリアル密林体験できるけどね。  食材はいつも決まった店で購入するみたい。スーパーのような総合店は存在せず、あちこちの専門店に顔を出した。あれだ、昔の商店街に似ている。御用聞のようなお店があって、顔を出すと「いつもの」で注文が終わる感じ。  実際、ブレンダはあまり詳細な注文をしなかった。ただ、聞いている感じだと注文量を増やしたっぽい。私達の分だとしたら、何か稼いで穴埋めしないと悪いな。アイカはそう思った。
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